DAOの現状と今後の展望(後編):忍者から空き家、地方創生、Jリーグまで

DAOの最新状況と今後の展望ということで、前編では国内外にあるDAOの概況に触れ、グローバルでの主要なDAOの事例をいくつかご紹介しました。
本稿となる後編では、日本国内の代表的なDAOの事例とその現状を取り上げた上で、最後にDAOの今後について、予測や展望をまとめてみたいと思います。
※本稿は、日本DAO協会のホルダーであるjun1obaさんが、協会内のDAO調査プロジェクトの一環として執筆したものです。
目次
いかにも日本的?… Ninja DAO
日本国内発のDAOは、当然ながら日本の経済、社会、文化、歴史といった多くの要因を反映したものが多くなります。例えば、漫画やアニメ、さらには侍や忍者といったカテゴリーは外国人にもウケが良さそうです。
という訳で、まずは「Ninja DAO」をご紹介しましょう(

同DAOの公式ブログ「CryptoNinja BLOG」によると、Ninja DAOは「CryptoNinja NFT」(クリプトニンジャNFT=NFTコレクション)の公式コミュニティ」だということです。
ブロガーや著述家として知られるイケダハヤト氏がCryptoNinja NFTのプロデュースに深く関わっていますが、同DAOに関してはコミュニティによる自律分散型の運営が行われているといいます。
DAOにおける意思決定も全メンバーによる投票によって行われ、投票結果はブロックチェーン上に記録されるため、誰でも閲覧可能で透明性が保たれています。
また同NFTに関しては、一定のガイドラインは存在するものの二次創作(ファンアート)の制作や販売が広く認められており、それがコミュニティの成長や拡大を後押ししている大きな要因となっているようです。
クリプトニンジャに関しては、NFTに留まらずアニメーションやゲームといったメディミックス的な展開も行われています。
さらに、Nouns DAOのクリプトニンジャ版とも言えそうな「CN Nouns」や、クリプトニンジャ・パートナーズ(CNP)といった派生プロジェクトも次々と立ち上げられるなど、日本発の代表的なNFT/DAOプロジェクトの一つとなっています。
地方創生DAOの草分け、山古志DAOはネオ山古志村に進化
お次は日本の経済や社会情勢を反映したDAO事例として、新潟県長岡市の「山古志DAO」です2。
山古志DAOは地方創生や地域活性化に絡むDAOとしてご存じの方も多いかと思います。この分野では草分け的な存在ですし、限界集落や過疎化、災害(新潟県中越地震)からの復興といった日本の現在の課題への対策となり得る「デジタル村民」の創出や関係人口の増加などで大きな注目を集めました。
その山古志DAOですが、「山古志住民会議」が外部の協力のもと、当地の名産ともなっている錦鯉にちなんだ「Nishikigoi NFT」を販売するところから始まり、この取り組みから誕生したクリプトヴィレッジが、「LOCAL DAO構想」という新しい概念や「デジタル村民1万人計画」を打ち出しました(図2)。

長野県飯田市の天龍峡(天竜峡)地域や宮崎県東臼杵郡の椎葉村を新たなLOCAL DAO候補地として選定するなど、山古志地域から始まった取り組みはその地域だけに留まらない全国的な広がりを見せ始めています。
一方、「1万人のデジタル村民」という目標は現時点では道半ばのようです。現状から分かるのは、過疎化が急速に進む地方で関係人口を増加させることがけっして容易ではないということでしょう。
山古志では昨年、地元住民とNishikigoi NFTをきっかけに集まったデジタル村民で山古志DAOを「ネオ山古志村」というコンセプトへと進化させ、新しい概念の「くにづくり」を開始しています。
地元住民と関係人口の融合による新たな挑戦ということで、新潟県内の大学や高校との本格的なコラボレーションプロジェクトも今年から始動しています。
「Web3×地方創生」の先進事例として広く認知され、多数のメディアから取材されるだけではなく国の審議会でもほぼ必ずといってよいほど紹介されるなど、地方創生DAOとして今も先端を走っているネオ山古志村による取り組みからは今後も目が離せません。
空き家や古民家などもDAOで ――― PlanetDAO
国内3つ目のDAO事例として、「PlanetDAO(プラネットダオ)」をご紹介します3。
PlanetDAOは、公式サイトによると歴史的あるいは文化的に価値のある建造物を保全・活用することで次世代に継承するという活動に取り組んでいます。
特に、公共性の高い寺社や仏閣など個人や法人が保有することが困難な物件を同DAOで取得し、国境を超えた多彩な個人の集まりで運営するといいます(図3)。

人口減少や少子高齢化が加速度的に進行しつつある現状については、既に挙げた山古志DAOでも触れました。山古志DAOやLOCAL DAOが地域に着目した解決策だとするなら、PlanetDAOは建造物に着目してその分野での解決策を探る取り組みと言えるかもしれません。
少し違った表現をするなら、そういった価値ある建造物(実物資産=Real World Asset:RWA)の所有権や使用権を「トークン化(tokenization)」する試みということになるでしょうか。
2025年6月現在、同DAOでは神奈川県三浦郡葉山町の古民家、和歌山県東牟婁郡那智勝浦町のお寺の2つのプロジェクトに主に取り組んでいるようです。
リーガルラッパー4としては、諸般の事情を考慮した結果として昨年4月に解禁された合同会社型DAOではなく、「株式会社型DAO」5を物件毎に採用するといいます。
同DAOが手がけた葉山の古民家は2025年の第4四半期にオープンの予定ということなので、オープン後の続報を楽しみに待ちたいと思います。
法制度で実績をあげているRULEMAKERS DAO
さて、先ほど触れた合同会社型DAOや株式会社型DAOですが、こういった法制面での枠組みは、DAOやWeb3が普及あるいは発展していくうえで欠かせないものです。
そうした法制度の整備に向けて、政府や監督官庁への働きかけや新たな法律の立法・施行を実現したDAOが、「RULEMAKERS DAO(ルールメイカーズDAO: RMD)」です(図4)6。

RULEMAKERS DAOの実績としては、上述の合同会社型DAOや「デジタルノマドビザ」の法制化実現などがあります。
日本では敗戦を通じて民主化が実現したという経緯もあるせいか、政治や民主主義への参加といった面での意識が必ずしも高くないと感じることがありますが、日々の生活や仕事にも関わる法律や制度については、積極的に関わって進んで改善していくという心構えが大切だと思われます。
そのような意味で、RULEMAKERS DAOの存在意義は小さくないですし、同DAOが果たす役割はとても重要と言えるでしょう。
スポーツ系DAOの流行に先鞭をつける? アビスパDAO
さて、かなり硬い話題が続いたので、本稿でご紹介するDAO事例の最後は、もう少し柔らかい話題で締めくくりたいと思います。
読者の皆様も野球やサッカーといったプロスポーツの観戦が趣味や好きだといった方が数多くおられると思いますし、地元チームの活躍を見れば必ずしもファンではないとしても喜ばしいといった方は少なくないでしょう。
そういったプロスポーツの世界にも、なんとDAOがあるのです。その代表的なDAOの事例が、サッカーのJリーグに加盟する福岡県福岡市のアビスパ福岡が設立した「アビスパDAO」です(図5)7。

プロによる野球やサッカーでは、それぞれのチームが立地する都市や街(町)ごとにファンクラブや応援団があるといったことが珍しくないですが、J1でDAOを結成したのはアビスパ福岡が初めて、かつ現時点では唯一です。
海外にも目を向けると、サッカーや野球ではプロスポーツチームのファンコミュニティやファントークンにブロックチェーンやWeb3技術を活用する事例が増えつつあります。
具体的には、FCバルセロナ、ACミランといった知名度の高い欧州のプロサッカーチームだけでなく、米国の4大スポーツ(アメリカンフットボール:NFL、野球:MLB、バスケットボール:NBA、アイスホッケー:NHL)にもファントークンやDAOによる取り組みが拡大しているようです。
アビスパDAOの設立経緯や背景については、公式Noteの記事で詳しく紹介されていますので、本稿でその詳細には触れません。ただ、DAOという形態を採用した理由については、アビスパ福岡が「一緒に創る関係を育てたい」と考えたことが大きな動機だったと言います。
つまり、「共創」ですね。
アビスパDAOでは、「誰でもトークンを持つことでプロジェクトに関わることができます。アイデアを出す、DAOが実行するプロジェクトの意思決定に参加する。そんな『共創のかたち』がここにはあります」と言います。
筆者は九州出身ですが福岡ではなく隣の大分ですし、必ずしもサッカーの観戦が好きという訳でもないのですが、DAOやWeb3といった観点でアビスパDAOには興味が沸きました。
公式Noteを読んでいると、そういった人でもアビスパDAOは受け入れてくれる雰囲気があるようです。筆者もそのうちトークンを入手して、アビスパ福岡を応援しているかもしれません……
今後もスポーツ系DAOや地方創生系DAOが増加するか注目
ということで、前編に合わせてここまで国内のDAO事例を5つご紹介しました。
日本国内では、どちらかと言えばNFTや暗号資産への投資よりも、古民家や空き家のシェアリングエコノミー、地方創生といった分野でのDAOが多いと感じます。
今後どのような展開が見られるかについて正確な予想は難しいですが、敢えて予想するとしたら、次のような感じでしょうか:
- プロスポーツ系のDAOが増加する
- 地方創生や地域活性化、関係人口の増加を目指した関連DAOが増加する
- 合同会社型DAOを採用した事業やプロジェクトが増加する
現時点では「当たるも八卦当たらぬも八卦」であることを百も承知の予想であることは、ここでお断りしておかなければなりません。
ですが、アビスパDAOが成功しアビスパ福岡がJ1で優勝!なんてことになれば、ほぼ間違いなくJリーグでDAOを組成するチームが増加するでしょう。
山古志地区の関係人口が今後も順調に増加すれば、それにならって過疎化や人口減少に頭を悩ます地方や地域でDAOやNFTによる地域活性化や関係人口の増加を目指す動きが加速しそうです。
また会社法の改正によって合同会社の設立が可能となって以降、まだ株式会社ほどは普及していないながらも、筆者も含めて法人化の際に合同会社を選択する事例は珍しくなくなっています。
例えば、「GAFA」です。読者の皆様は、アップルやアマゾン、グーグルといった米国系IT大手の日本法人がすべて合同会社であることをご存じですか?
分かり易い例として外資系のGAFAを挙げましたが、国内の大手企業でも株式会社ではなく合同会社を選択する例が増加しています8。
ですので、合同会社型DAOという形態によって成功する事業やプロジェクトが数多く出てくれば、今後はそれが当たり前になる時代が来る可能性も十分あると筆者は考えています。
また、地方創生DAOが日本全国の津々浦々まで行き渡るようなことになれば、それぞれのDAO間で関係人口の取り合いとなり、より魅力のあるDAOや参画するだけの必然性9がそれぞれのDAOに参画する人の数を左右することになるでしょう。
【注釈/出典】
1: Ninja DAO
2: ネオ山古志村
3: PlanetDAO
4: リーガルラッパー(legal wrapper)とは、DAOが法的な枠組みの中で活動するために採用する法人格のことです。DAOはスマートコントラクトによって自律的に運営されるため、法人格を持つ必要は本来ありません。しかし、事業運営や資金調達の観点から、法的な保護や契約締結のために法人格を持たせることも多くなっています。
5: 同社による造語。
6: RULEMAKERS DAO
7: アビスパDAO
8: 伝統的な国内大手企業の場合、顧客や株主などから変な疑念を抱かれないよう、敢えて株式会社のままを維持する企業が多いと思われます。
9: それが収益性なのか、面白さなのか、あるいは郷土愛になるのかは、各DAOによるでしょう。
この記事を書いた人
- 日本DAO協会ホルダー|関東在住ながら岡山や広島に事業拠点があり、しょっちゅう行ったり来たりしている。再エネ関連で署名記事も執筆しており、この分野には結構うるさい。ライフワークとなり得るDAOの立ち上げを自身でも検討中。
2025年6月15日DAOの現状と今後の展望(後編):忍者から空き家、地方創生、Jリーグまで
2025年5月27日DAOの現状と今後の展望(前編): NFT投資から慈善活動、人道的支援まで