DAOの現状と今後の展望(前編): NFT投資から慈善活動、人道的支援まで

 DAOの最新の状況はどんな感じで、今後DAOはどのようになるのでしょう?

 そんな素朴な疑問を持つ方もまだ多いと思うので、本稿ではDAOの現状を俯瞰するとともに国内外の主要なDAO事例に触れつつ、考察を試みることにします。

※本稿は、日本DAO協会のホルダーであるjun1obaさんが、協会内のDAO調査プロジェクトの一環として執筆したものです。

世界のDAOは1万3000以上、国内には200超が存在

 まず、DAOは一体どれくらいあるのでしょうか。会計や税務、コンサルティングなどを手がけるアーンスト&ヤング・グローバル(EY Global)社によると、2023年5月の時点で世界全体にあるDAOの総数は1万3000団体を超えていたといいます1

 2年ほど前の調査ですが、暗号資産(仮想通貨)の普及やWeb3技術の進展といった要因を考えると、現在も同程度以上のDAOが存在すると考えられます。

 それでは、日本国内ではどうでしょうか。Web3やDAO関連事業を手がけるガイアックス社が2023年1月に実施した調査によれば、国内には200団体を超えるDAOやWeb3コミュニティが存在するようです(図1)。

国内DAOカオスマップ
図1●日本国内には200超のDAOが存在(出所:ガイアックス)

 この世界全体:1万3000団体と国内:200団体という数字(つまり、世界のDAO 65団体のうち1つが日本のDAOという比率)を考えてみましょう。

 まず人口比では、直近の世界人口は約81億人(「世界人口白書2024」に基づくデータ)に対して日本の総人口は約1億2300万人(総務省統計局の国勢調査に基づくデータ)なので、その比は81÷1.23=65.8536585…≒66。

つまり人口比の観点では、日本にあるDAOの数はほぼ妥当と言えるでしょう。

 では、経済規模の点ではどうかも見てみましょう。経済力とDAOの数に正の相関があると一概には言えないものの、経済がある程度発展していて暗号資産などにも触れる人が多い国や地域の方が、DAOの数も多いと考えられるからです。

 わかりやすくするために、国内総生産(GDP)ベースで比較してみます。

 内閣府の経済社会総合研究所(ESRI)が公開している資料によると、2023年の日本の名目GDPは4兆2137億ドルで、世界全体に占める比率は4%です2

 この4%を世界全体のDAOの数≒13,000に当てはめると、経済力の観点から日本に存在して然るべきDAOの数は 13,000×0.04=520となります。

 つまり、経済規模から見ると日本発のDAOは500団体を超えていても不思議ではなく、国内DAOの数が200超という上述の数字からはDAOがもっとあっても良いと考えられそうです。

代表的な仮想通貨「ビットコイン」もDAO?

 ここまで国内外のDAOに関する巨視的な分析を示しました。これ以降、国内外の代表的なDAO事例をいくつか挙げつつ、その現状や今後について考察してみたいと思います。

 トップバッターは、ビットコインです。「え、ビットコインって仮想通貨でしょ、なんでDAOなの?」と思われる方も多いかもしれません。

 ですがビットコインは、ブロックチェーン技術に基づき中央集権的な管理者が存在せず自律分散型で成り立っているという点で、DAOとしての性質を持ちます(より正確に言えば、ビットコインに関わる人や企業・団体から成り立つ組織がDAO的であるということです)。

 謎の人物「サトシ・ナカモト」が2008年に論文を発表して以来、多くの研究者や開発者、金融機関やマイニング事業者を巻き込みつつ、今や「金持ち父さん 貧乏父さん」のロバート・キヨサキ氏が推奨する投資対象にもなったビットコインですが、DAOの草分けでもあるということを覚えておいて損はないでしょう。

 次のDAO事例として、ビットコインとも関連の深いPizza DAO(ピザDAO)をご紹介しておきます(図23

図2●ピザDAOの公式ホームページ(出所:PizzaDAO)
図2●ピザDAOの公式ホームページ(出所:PizzaDAO)

 そのようなDAOがあるということは筆者も以前から知っていたのですが、その仕組みを理解したのは、日本DAO協会に参画しDAO調査を手がけてからです。

 ざっくり説明します。ピザDAOの目的は、毎年5月22日(「ビットコイン・ピザの日」)にピザを無料で食べる、というもの。

 2010年のその日、ピザ2枚を1万ビットコインで買ったという逸話は、今ではとても考えられないのですが、ピザDAOは「レア・ピザ」NFTを発行し、その収益を原資として毎年5/22にピザを無料で振る舞うパーティを開催するほか、DAO/クリプト関連イベントでもピザを振る舞っています4

 ピザDAOのメンバーは世界80カ国以上におり、活発に活動しているようです。

 日本にもピザDAOのメンバーは存在します。武蔵野美術大学大学院の客員教授を務める西村真理子氏は、自身がピザDAOのメンバーであることをNoteの記事で明らかにしています5

NFT投資や慈善活動、戦禍での人道支援もDAOで

 3つ目のDAO事例は、Flamingo DAO(フラミンゴDAO)です(図3*6

図3●フラミンゴDAOの公式ホームページ(出所:Flamingo DAO)
図3●フラミンゴDAOの公式ホームページ(出所:Flamingo DAO)

 フラミンゴDAOの目的は、NFTの購入と収集、管理です。同DAOのメンバーは共同でNFTを所有し、その価値を共有します。このような仕組みとすることで、個人では手が出し難いような高額なNFTでも購入や所有が可能となり、NFT資産を共同所有することでリスクの分散も図れるという訳です。

 同DAOでは、どのNFTを購入あるいは売却するか、といったDAOとしてのNFT投資に関する意思決定をオンチェーンの投票によって行っているのでしょう。

 ガバナンストークンとしてNFTを活用するDAOは多く見られますが、フラミンゴDAOはいかにもDAOっぽいというか、代表的なDAO事例と言えそうです。

 4つ目の事例として、Big Green DAO(ビッググリーンDAO)を挙げます*7

 ビッググリーンDAOは、2021年12月にキンバル・マスク氏(実業家であるイーロン・マスク氏の実弟)が設立した非営利のDAOです。

 同DAOの目的は、農業を通じてコミュニティの健康と教育を促進することです。特に、食品の栽培が人々の生活に与える影響に焦点を当てています。

 同DAOには約120人のメンバーが在籍し、助成金の提供、コミュニティイベントの開催、農業教育プログラムの運営などに日々取り組んでいます(図4)。

図4●ネバダ州ラスベガスの学校で活動に取り組むビッググリーンDAOのメンバー(出所: Big Green DAOブログ)
図4●ネバダ州ラスベガスの学校で活動に取り組むビッググリーンDAOのメンバー(出所: Big Green DAOブログ)

 野菜や果物を栽培することで、栄養への知識や関心を高めたりメンタルヘルスを改善したりすることが可能となり、気候変動によってもたらされている異常気象にも目を向けることになるとしています。

 本稿では最後、5つ目のDAO事例として、Ukraine DAO(ウクライナDAO)を挙げておきます8

 同DAOはロシアによる侵攻で戦禍に見舞われているウクライナで、人道的な支援、資金調達、正確な情報発信、ウクライナ文化の広報、といった活動に取り組むため、2022年2月に発足しました。

 同DAOはウクライナ国旗のNFTをオークションの形で販売し、世界中から暗号資産による多額の寄付金を集め、そのおカネを戦禍で困窮しているウクライナの人々に分配するという活動で知られています(図5)。

ウクライナの国旗
図5●ウクライナの国旗(出所:Wikipedia CC 3.0)

 例えば、同DAOが2022年2月に72時間かけて実施したNFTのオークションでは3200人以上の応札者から2258ETH(約6.7億円)の寄付金を集めることに成功したといいます*9

 人道支援や寄付といった活動は尊いものですが、一方で人の善意につけ込んで詐欺や横領といった不祥事が起きることもけっして少なくありません。

 ウクライナDAOでは、DAOという透明性の高い組織運営を採用することで、資金調達活動をすべて公開し支援の流れを明確化しやすくなり、上述のような問題の発生を未然に防止することが期待できると言えるでしょう*10

 以上、ここまででDAOの概況を俯瞰し、筆者の視点ながらグローバルの代表的なDAO事例を5つ挙げてみました。DAOが投資から慈善活動や社会課題の解決といった幅広い分野で活用されていることがお分かりいただけたかと思います。

 本稿の後編では、国内のDAO事例をご紹介するとともに、その特徴や傾向、今後の展望などをお伝えする予定です。

 なお、6月8日には当協会が共催するDAOイベント「ソーシャル Innovation Expo 2025」が大阪で開催されます。DAOや地方創生に興味や関心のある方は、ぜひ足を運んでみて下さい。


【注釈/出典】

1: Decentralized autonomous organizations (DAOs): Stewardship talks but agency walks, Journal of Business Research Vol.178, May 2024, 114672
2: 参考資料6.GDPの国際比較 内閣府 経済社会総合研究所
3: Rare Pizzas Collectable NFTs
4: 余談ですが、2024年8月に開催された「DAO Tokyo」というイベントでは、筆者もピザをご馳走になりました。

5: 5月22日は何の日?10,000ビットコイン(約370億円) でピザ2枚を交換したビットコインピザ記念日 Note

6: Flamingo DAO
7: Big Green DAO
8: Ukraine DAO
9: ウクライナ「NFT寄付」の衝撃 第一生命経済研究所
10: DAOにおいても不正やガバナンスの偏在は起こり得ますので、留意が必要です。

この記事を書いた人

jun1oba
日本DAO協会ホルダー|関東在住ながら岡山や広島に事業拠点があり、しょっちゅう行ったり来たりしている。再エネ関連で署名記事も執筆しており、この分野には結構うるさい。ライフワークとなり得るDAOの立ち上げを自身でも検討中。